息の長いアイドルが豊作だった1982年。
テレビや雑誌では、この年にデビューしたアイドルを花の82年組と呼びますが、メディアで紹介されるのは、中森明菜さん、小泉今日子さん、早見優さん、堀ちえみさんといった特定の人ばかり。
82年にデビューしたのは、原田知世さん、パンジー(北原佐和子さん、三井比佐子さん、真鍋ちえみさん)、水野きみ子さん、伊藤かずえさん、伊藤さやかさん、そして今回紹介させていただく新井薫子さんなど、まだまだ多くのアイドルが存在します。
今回は、新井薫子さんの2ndアルバム「愛になりたい・・・Kaoruko」のレコードレビューと共に、新井薫子さんというアイドルにまつわる話を書いてみたいと思います。
【新井薫子】2ndアルバム「愛になりたい」レビュー
新井薫子とは
新井薫子さんは、現在ではB級アイドルという扱いになっていると思いますが、デビュー当時は、全員横並びで、リアルタイムで見ていた方は、この中から誰がトップになるのかな…なんて思いながら歌番組などを見ていたことと思います。
当時は色々な音楽祭があって、何らかの賞を取ることが出来なかったアイドルは、いつのまにか、又は早々に路線変更をして、それが受け入れられず消えていきました。
新井薫子さんは、クリクリッとした大きな瞳に太陽のような笑顔、聴いていて楽しくなるようなアイドルポップソングを歌うという王道アイドル路線でデビュー。
第1回「メガロポリス歌謡祭」では優秀新人エメラルド賞を受賞し、はっきりした顔立ちと、張りのある歌声で、インパクトも強く、当時の認知度は高かったように記憶しています。
当時、私の妹が新井薫子さんを好きで、デビューシングルの「虹いろの瞳」を買っていました。
私は河合奈保子さんの大ファンだったので、他のアイドルのレコードは、それ程買いませんでしたが、新井薫子さんの顔立ちと太陽を思わせるような歌い方&曲調から、82年組の中では、河合奈保子さんに一番雰囲気が似ているなと思って、新井薫子さんのことが好きでした。
2ndシングル「イニシャルは夏」は、デビューシングルと同じ路線、3rdシングル「赤い靴」は、ポップな哀愁ソング、4thシングル「私の彼は左きき」は、麻丘めぐみさんのカバーと、ここまでは王道アイドル路線でしたが、5thシングル「大和撫子”春”咲きます」からは、解釈を間違えたテクノ歌謡みたいな曲調と、ぎこちないエアロビクスのような振り付けで、失笑の対象のような存在に…
6thシングル「OH!新鮮娘」を最後に新曲をリリースすることもなく、いつの間にか消えてしまった感じですが、先程もお話ししたようにインパクトは強かったので、「新井薫子は死んだ!」などの噂が、私の周りでも流れていました。
おニャン子クラブで有名なフジテレビのバラエティ番組「夕やけニャンニャン」で新井薫子さんの死亡説の話題が出て、本人が出てきたこともありました。
その後、イラストレーターや、THE TABLES、カオルコ名義で楽曲をリリースするなど、マルチに活動されていました。
2ndアルバム「愛になりたい・・・Kaoruko」レビュー
この2ndアルバムは、1982年10月21日に発売されました。
レコードには歌詞カードの他に、三つ折りになった新井薫子さんのポスターが入っています。
収録曲は以下の通り。
(A面)
- イニシャルは夏(詞:三浦徳子 曲:網倉一也 編:大村雅朗)
- ホリデイ(詞:三浦徳子 曲:網倉一也 編:大村雅朗)
- ふたりのティー・タイム(詞:小林和子 曲:林哲司 編:林哲司)
- 踊ってWITH OUT YOU(詞:木本祥 曲:木本祥 編:矢野立美)
- 愛になりたい(詞:三浦徳子 曲:網倉一也 編:大村雅朗)
(B面)
- キャンドル 17(詞:小林和子 曲:林哲司 編:林哲司)
- 落葉のランデブー(詞:いわさきゆうこ 曲:黒住憲五 編:大村雅朗)
- この恋可哀そう(詞:三浦徳子 曲:網倉一也 編:萩田光雄)
- 三重奏(詞:青木久美子 曲:見岳章 編:見岳章)
- あなたのいないクリスマス(詞:小林和子 曲:松尾清憲 編:大村雅朗)
「イニシャルは夏」は2ndシングル、「ホリデイ」は2ndシングルのカップリング、「愛になりたい」は4thシングル「私の彼は左きき」のカップリングで、残りは、このアルバムのために書き下ろされた新曲となっています。
A面は全てメジャー調(明るい曲調)、B面は「落葉のランデブー」を除いて全てマイナー調(悲し気な曲調)という楽曲構成。
私は色々なアイドルのアルバムを聴きますが、このアルバムを聴いた時、他のアイドルのアルバムとは少し毛色の違う印象を持ちました。
この時期は、楽曲にインパクトを与えるために、バイオリンなどのストリングスやトランペットなどのホーンセクションが盛大に鳴るようなアレンジがよく見られましたが、このアルバムでは、それらは最小限にとどまり、ギター・ベース・ドラムといったバンド系の楽器をメインにしたアレンジになっています。
ものすごくグルーブ感のある演奏で、新井薫子さんの歌い方と相まって、曲が跳ねまくり。
竹内まりやさんのアメリカンポップを彷彿させるような「ふたりのティー・タイム」、ナイアガラサウンドのようなリズムの「愛になりたい」、変拍子や転調、おしゃれで浮遊感のあるサビのメロディーが印象的な「三重奏」を聴いていると、シティ・ポップを聴いている気分になります。
演奏者のクレジットの記載がないため、誰が演奏しているのか分かりませんが、70年代に何らかの形でシティポップに関わった方々ではないかと想像します。
作曲者のクレジットをみると、一風堂のキーボーディストだった見岳章さん、シティポップアーティストとして活躍した林哲司さん、松尾清憲さん、黒住憲五さんなど、そうそうたる顔ぶれ。
林哲司さん、松尾清憲さん、黒住憲五さんについては、「レコードコレクターズ」3月号や4月号(2018)でアルバムが紹介されていますので、気になったらチェックしてみてください。
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「虹いろの瞳」「イニシャルは夏」を作曲した網倉一也さんは、郷ひろみさんの「マイレディー」、岩崎良美さんの「I THINK SO」、太田裕美さんの「南風」、田原俊彦さんの「悲しみ2(TOO)ヤング」などのヒットソングを作曲した方で、ご自身のデビュー曲「グッバイ横須賀」は、フォークソング時代のアルフィーを思わせるような、美しくも切ないメロディーが印象的な曲なので、動画サイト等で是非聴いてみてください。
話しを新井薫子さんに戻します。
新井薫子さんの声は、ハツラツとした可愛らしさがあり、音の立ち上がりも良いため、このアルバムとの相性はバツグン。
どの曲も秀逸ですが、特に気に留まったのは、「キャンドル 17」と「この恋可哀そう」。
「キャンドル 17」は、ABBAの「Voulez Vous」や「Gimme! Gimme!Gimme!」を思わせるようなディスコチックなノリが気持ち良い曲、「この恋可哀そう」は、河合奈保子さんの「愛をください」に似た雰囲気を持つ曲で、河合奈保子さん好きの私はハマりました。
まとめ
現時点(2019年7月)において、新井薫子さんの曲はCD化されておらず、その音楽に触れる機会は少ないと思いますが、アイドルとしての最大の魅力である”元気を与えてくれる存在”という意味では、82年デビュー組の中ではピカイチだと思います。
動画サイトではシングル曲を聴くことは出来ると思いますが、近年のレコードブームで、レコードに関する環境も整いつつある今、レコードでアルバムを入手し、こういった埋もれた名盤を是非聴いてみてください。