2020年4月25日、SHUREから新しいイヤホンAONIC(エオニック)シリーズ3機種が発売になりました。その中でも、これまでのSEシリーズとは全く異なる超コンパクトな形状で異彩を放っているAONIC3。
SHUREの新製品発表動画(フジヤエービックの公式YouTube)によると、AONIC3は、SHURE=高音質イヤホンというイメージを不動のものにした名機E4Cのリファインモデルとのこと。
SHURE E4Cは、シングルBAながら完成度が非常に高く、あの音が忘れられない…なんて方もたくさんいらっしゃると思います。私もその一人で、E4Cは当時初めて購入した高級イヤホンでした。
今回発売されたSHURE AONIC3は、本当に名機E4Cの再来機種となっているのか、E4Cの音や使い勝手などを思い出しながら、詳しくレビューしていきたいと思います。
結論から言うと、AONIC3は今回発売されたAONICシリーズの中で一番低価格のイヤホンにも関わらず、その実力は新名機誕生というべき完成度でした。
SHURE AONIC3レビュー(仕様と音質)
AONIC3の凝った外箱
今回のAONICシリーズは、まるでミニチュアの高級な帽子でも入っているかのようなイヤホンでは珍しい円柱の箱に収められています。
箱をディスプレイできるように、底にはシリコンのすべり止めが。
結構深さがあるので、イヤホン関係の小物入れなんかとしても重宝しそう。
AONIC3の付属品
Amazonなど一部の製品ページの写真を見ると、AONIC3に付属しているイヤーピースは、シリコンとフォームしか映っていませんが、安心してください、AONIC4・AONIC5と同じ豊富なイヤーピースが付属しています。
<AONIC3付属品一覧>
- フォーム・イヤパッド(S/M/L)
- ソフト・フレックス・イヤパッド(S/M/L)
- イエロー・フォーム・イヤパッド
- トリプルフランジ・イヤパット
- キャリングケース
- 6.3mmアダプター
- クリーニングツール
AONIC3 本体仕様
AONIC3のスペックは以下の通り。
- ドライバー:BA(バランスドアーマチュア)×1
- 再生周波数帯域:22Hz~18.5kHz
- インピーダンス:28Ω
- 感度(1kHz):107.5 dB SPL/mW
- 外部ノイズ減衰量:最大37dB
本体はE4C同様、非常にコンパクトで、鉛筆程度の太さに2cm程の長さ(ノズル部を除く)。
カラーは、本体下部が黒で、半分から上はスモーキークリアとでも言うべきか、薄っすらとBAユニットが透けて見えます。
イヤホンケーブルは、長さ127cmのMMCX端子の脱着可能ケーブル(3.5mステレオミニプラグ)で、右側にマイク付きリモコンが付いています。リモコン部は非常に軽量なため、イヤホンを装着した時、右側がリモコン部の重みで引っ張られるような感覚は皆無。
SHUREの文字が書かれた面にはAndroidとiOSの切り替えスイッチ、裏面のボタンでは再生・停止・ボリューム調整・曲送り(戻し)が出来るようになっています。
コードを束ねるコードスライダーが付いていますが、リモコンユニット部分までしかスライドできません。
イヤホンケーブルは、現行のSEシリーズBT2-Aに付属しているものと同じRMCE-UNI。これまでの有線版SEシリーズに比べると華奢な感じもしますが、音質に関してはSE846のケーブル等を付け替えて聴き比べてみたところ、解像度(音の鮮明度合い)や音の力感等、RMCE-UNIでもAONIC3のポテンシャルを引き出すのに必要十分と思いました。
かつてのE4C最大の欠点は、ケーブルの断線と皮膜割れ。AONIC3では、MMCXによる着脱ケーブルになったことで、こういった不安が一掃されました。
ただ、ケーブルはイヤホン本体に垂直に刺す形になっていて、かつ、本体が小さいだけに、装着時にMMCX結合部に負荷がかからないよう、ちょっと注意が必要です。それと、SHURE掛け(ケーブルを耳に掛ける)が前提なら、MMCX結合部は少し前方に角度が付いていた方が耳に掛けやすいかな…と感じました。
イヤホンとケーブルをLR逆に付ければ、通常のイヤホンのようにケーブルを下に垂らすことも出来るので、この辺はお好みで。
AONIC3の音質
音質チェックにあたり、イヤーピースはシリコン(大)、SONYのDAP NW-ZX2に直差し、音源は44.1kHzや96kHz(ハイレゾ)のflacを使用しました。
70年代~現代までの歌謡曲・J-POP・ハードロック・アイドルソングなど、ボーカルの入っている曲を中心にアレコレ聴いてみたところ、
E4C再降臨、名機誕生AONIC3!!(´▽`*)パチパチ
音を出した瞬間、あの感動を思い出しました。
10時間程度鳴らしてみましたが、若干音の角が取れたかなという程度で、エージング(イヤホンの慣らし)前後で、音質の印象ははそれ程変わりませんでした。
AONIC3の全体的な音の特徴は、
- 全ての音に芯が通った堅実な音
- 音像(音の面積)がデカイ
- 音は近いが立体的
- 明るすぎず暗すぎず脚色のない自然な音色
- 十分重みを感じるキレのある低音
- 全体的な解像度は高く、特にベースラインが手に取るようにわかる低音の解像度の高さは秀逸
- 中域が若干持ち上がっているが、音量バランスはほぼフラット
- BAの良さがよく分かるSHUREならではのチューニング
色々書きましたが、AONIC3の音を一言で言うなら、
自然、リアル、これぞBA!
ハイハットやシンバルの音がシャリシャリしたりエッジ(輪郭)を強調しすぎてキンキンする、ボーカルが薄っぺらい、低音がモコモコして膨らんでいるなんてこともなく、AONIC3で聴く音は、普段耳で聴いて知覚している音そのもの。
特に、ボーカルに関しては、元々補聴器に使われていたBAドライバーを使用していることと、巧みなSHUREのチューニングのおかげで、ダイナミックドライバー搭載イヤホン以上の生々しさを体感できます。
ディストーションなど歪み系ギターのザクザク音や、スネアのパン!と叩いた音も分厚くキレがあって、超気持ちいいーー!
ベース、ロータム、バスドラムといった低音部は、明瞭なアタックとムッチリとした重みを伴った非常に良質なチューニング。
ズシーンとどこまでも沈み込んでいく感覚はない反面、余計な低音の響きがないせいで、音場(音の空間)下部はスッキリとしており、ハードロックの連打されるバスドラムのリズムパターンやベースラインの耳コピを音楽として楽しみながら解析的に聴くことも出来ます。
DREAM THEATERの楽曲「METROPOLIS-PART I “THE MIRACLE AND THE SLEEPER”」のベースの速弾きは、イヤホンによっては、ゴチャッとなりがちですが、AONIC3では1音1音明瞭に描き分けます。
ウッドベース等の胴鳴りは、シリコンイヤーピースだとちょっと感じづらいですが、密閉度の高いフォームやトリプルフランジを使うと低音の響きが増すので試してみてください。
音場(音の空間)は、AONIC3の性能というより、各楽曲のミキシングに依存し、こじんまりしたものもあれば非常に広大なものもあります。
ただ、どの楽曲を聴いても感じるのは、
- 全ての音が3次元化されたような立体感がある
- 左右で鳴っている音は真横というよりは、耳の前後空間で鳴っている
- 空間上下は仕切りが取っ払われたような開放感あり
- リバーブ(エコー)等の残響効果が強めにかかっている曲では、前方(奥行き)に余韻が消えていく様子がよく分かる
マルチBA(BAユニットを複数積んでいる)の空間を、
夜空を見上げるようなイメージ
とするなら、AONIC3の空間は、
ライブハウス最前列にいるイメージ
こういった立体的な空間表現は、E4Cからより進化した部分ではないかと感じます。
解像度の高さとミキシングされた定位(音が鳴っている位置)の高い再現性により、同じような位置で鳴っている複数の楽器の音も、微妙に上・奥といった感じで、重ならず鮮明に分かります。
70年代の音のザラツキ感・生楽器の耳がくすぐったくなるほどの音の生々しさ
現代の音圧アゲアゲ楽曲における通常音源とハイレゾの違いの描き分け
こんな感じで、AONIC3は比較的安価なシングルBAながら、SHUREの蓄積されたノウハウと独自のチューニングにより、今まで聴いていた曲がリマスター化されたような体験をさせてくれます。
まとめ:SHURE AONIC3レビュー
高級イヤホンがマルチBAやハイブリッド(ダイナミックドライバー+BA)化する中、シングルBAイヤホンは軽視されがちですが、ダイナミックドライバーと比べてBAイヤホンの良さって一体何なのか…
そんな問いに明確に応えてくれるのが、SHURE AONIC3。オーディオ的に音がうんぬんという以上に、生演奏を疑似体験できるような音のリアルさ。AONIC3は、そんなBAの魅力を極限まで引き出すようチューニングされた非常にクリアな音を奏でるイヤホンです。
イヤホン初心者はもちろんのこと、イヤホン沼にハマろうとしている方も、AONIC3を1本持っていれば、これをリファレンスとして、他のイヤホンとの音質差と価格差のバランスを図ることが出来ると思います。
かつてE4Cを使っていて、泣く泣く断線等で手放し、あの音が今でも恋しい方は、
視聴なしで買っちゃって大丈夫!
保証も2年と、かつて神対応といわれたSHUREの保証も健在。AONIC3は、初めての高音質イヤホンとしても太鼓判を押せる逸品です。