1979年(昭和54年)10月19日に女性アイドル初の武道館コンサートが開かれました。
そのアイドルは大場久美子さん。
この武道館ライブは、大場久美子さん(以下、クーミン)の歌手活動最後のコンサートで、TBSでテレビ中継もされました。
当日は台風の影響で公共交通機関がストップし、コンサートの開催が危ぶまれましたが、あらゆる手段を使って7000人を超えるファンが武道館に駆け付けました。
今回は、このコンサートの模様を収録したLPレコード「さよなら ありがとう」について、コンサートの様子、MCで語ったこと、ビデオ版との違い等、気づいたことを書いてみたいと思います。
大場久美子 武道館ライブレコード「さよなら ありがとう」レビュー
「今日、武道館で行われる大場久美子さよならコンサートですけれども、台風の関係で若干の方からお問い合わせいただきましたけれども、開演時間を30分繰り下げまして、7時から開演と予定通り行われるという事でございます…」
嵐の音と共に、こんなアナウンスから、このアルバムはスタートします。
アルバムの仕様
ジャケットは2つ折りになっていて、左右にレコードが1枚ずつ収納されている2枚組のアルバムです。
歌詞カードのほかに、2つ折りのパンフレットが封入してあり、このパンフッレットにはコンサート時の写真と、クーミンからファンの皆様へのメッセージが書かれています。
レコードとビデオの収録曲の違い
レコードの収録曲は以下の通りです。
オリジナルとカバー曲の混ざったコンサート構成となっているので、オリジナルはどのアルバムに収録されているのか、カバーは誰の曲なのかを一応記載しておきます。
この武道館コンサートはビデオでもリリースされましたが、ビデオでは以下の赤字の曲はカットされています。
(Disc1)A面
- オープニング・オーバーチュアー
- イッツ・ソー・イージー(バディ・ホリーのカバー)
- ポップス・メドレー
・シーサイド・バウンド(ザ・タイガースのカバー)
・カイトに乗せて100マイル(アルバム「カレンダー」より)
・ホット・スタッフ – Hot Stuff -(ドナ・サマーのカバー)
・サンモリッツ速達便(アルバム「カレンダー」より)
・ヤング・セーラーマン – In The Navy -(ヴィレッジ・ピープルのカバー)
・ヤング・マン – Y.M.C.A -(ヴィレッジ・ピープルのカバー)
(Disc1)B面
- スプリング・サンバ(7thシングル)
- ラム・コークはいかが(アルバム「微笑のメロディー」より」)
- サファリ・パーク(アルバム「微笑のメロディー」より)
- ワンス・アポン・ア・タイム – Once Upon A Time -(ドナ・サマーのカバー)
- ダンスに夢中 – I Was Made For Time -(レイフ・ギャレットのカバー)
- 追憶 – The Way We Were -(バーブラ・ストライサンドのカバー)
(Disc2)A面
- なごり雪(イルカのカバー)
- ハートのポプリ(9thシングル)
- 海岸通(イルカのカバー)
- あこがれ(デビューシングル)
- 追いかけないで(2ndシングル)
- 大人になれば(3rdシングル)
- エトセトラ(4thシングル)
(Disc2)B面
- キラキラ星あげる(5thシングル)
- ディスコ・ドリーム(6thシングル)
- フルーツ詩集(8thシングル)
- スプリング・サンバ(7thシングル)
- ヒット曲メドレー(インストルメンタル)
・スプリング・サンバ
・あこがれ
・追いかけないで
・大人になれば - さよなら ありがとう(アルバム「カレンダー」より)
カバー曲について少し書いておきます。
ドナ・サマーは70年代のディスコミュージックの女王と呼ばれ、クーミンも大好きだったようです。
ヴィレッジピープルの「In The Navy」は、当時、渋谷哲平さんとピンク・レディがカバーしましたが、このライブで歌われたのは渋谷哲平さんのバージョンです。
ヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」は、西城秀樹さんのバージョンです。
レイフ・ギャレットは、かわいらしいルックスから当時アイドル的人気があったアメリカの歌手で、ナビスコのアイダホ・ポテトスティックのコマーシャルに出演していたことから、日本でも人気がありました。
「ダンスに夢中」と同時期にリリースされたアルバム「Feel The Need」に収録されている「NEWYORK CITY NIGHT」は、田原俊彦さんの「哀愁でいと」としてカバーされました。
バーブラ・ストレイサンドの「追憶」は、1973年のアメリカ映画「追憶」の主題歌で、アカデミー主題歌賞を受賞した名曲です。
このコンサートでの「追憶」は、クーミンのピアノ弾き語りでした。
レコードから伝わるライブの様子
最初にも書きましたが、このライブ当日は台風で公共交通機関がストップしてしまったため、チケットを購入したファンの方々は、家族に車で送ってもらったり、自転車を漕いで会場に向かったりと困難を乗り越えて武道館に到着したのだろうと思います。
そういった状況とクーミンの歌手ラストコンサートということもあり、LPレコードを聴いていてもクーミンとファンの方々の異様な熱気が伝わってきます。
クーミンは所々で”ホゥ~~”を連発しており、最後のコンサートを最大限に楽しもうとしているクーミンの様子がよく分かります。
メロディーやリズムがヨレがちなクーミンですが、このコンサートではその極みで、バックの演奏まで若干間違ったりしています。
しかし、その最大限に発揮されたナチュラルな感じが、よりクーミンの可愛らしさを増し、「スプリング・サンバ」でノリノリの”チャチャチャー”、「ディスコ・ドリーム」で口が回らず”デュシコー”みたいになっている部分等に思わずにやけてしまいます。
ラストの「さよなら ありがとう」では、涙声になって歌にならないクーミン。
ライブ盤の良さは、こういったその場の高揚感を感じ取れるところではないでしょうか。
コンサートの一部はカットされていると思いますが、レコードの面を変えた時、前面のフェードアウトで消えかかった部分からフェードインするので、ほぼフル収録と言っていいぐらいの臨場感があります。
このレコードを聴いていると「何て楽しそうなコンサートなんだろう。自分も参加できればよかったのに…」という思いに駆られて仕方ありません。
コンサートMC
ラストコンサートということもあり、クーミンは沢山のおしゃべりをしていました。
ここにはレコードに収録されているクーミンのコンサートMCを書いておきます。
イッツ・ソー・イージー終了後
みなさ~ん、こんばんはー!
嵐の中、どうもありがとー
大変だったでしょ?
こんなにたくさんの人
お元気ですかー?
アリーナの皆さん、元気ですかー?
2回の皆さん、元気ですかー?
3階の皆さん、聞こえますかー?
今日はとにかく最後です
一生懸命ガンバリたいと思います
最後までヨロシクー
(少し間があって)
え~、ちょっと次に移りたいんですけど、こんな雪だるまみたいなんで、ちょっと、これ(白い羽がびっしりついたコート)を脱ぎたいと思います
え~、昼間ここでリハーサルをしてる時は、もう大変でした
今日ショーが中止になるんじゃないかなんて
あら!?ちょっと(脱ごうとしている衣装のチャックが)引っかかっちゃった!アハハ
チャックの方も何かアガっているようです(笑)
もう胸がドキドキで、でも今日は声が出なくなるまでガンバリたいと思います
レッツゴ~~!
ポップス・メドレー終了後
どうもありがとー
うわぁ~~、何かまだ私もアガっているようなんですけども…
私は、この武道館に3回来たことがあります
えー、1回目は取材のため、そして2回目は音楽祭、ドナ・サマーを見に…
もうこんな大きいステージ、いっぱいの人、ドナ・サマーを見に…
ホント素晴らしいショーを見ました
そして今度はドナ・サマーの次は、私がここでやる!
そう決まって、果たしてどれだけドナ・サマーに近づけるか、とっても不安でした
でも、嵐の中、こんな沢山の人…来てくださって…
一生懸命負けないようにガンバリたいと思います
もしかしたら、声が出なくなるかもしれません
動けなくなるかもしれません
でも、精一杯ガンバリたいと思います
最後まで~、一緒に~、スプリング・サンバー
Disc2 A面始め(「なごり雪」曲前)
どうもありがとう
とっても拙いピアノを聴いていただきましたが、もう間違えるんじゃないかとドキドキでした
えー、今の「追憶」、この「追憶」のテーマと共に、私の周りには色んな時が流れていきました
デビュー当時の私…
もうとてもこんな沢山の人に聴いてもらえるなんて思ってなかった
ステージに上がれば、アガっちゃって声も出なくなっちゃうし…
そして色んな人に出会いました
もちろん会社の方たち
そしてレコード会社の人たち
レッスンやってくださった先生たち
そして歌手の仲間
そして、こんなにたくさんのファンの方たち
何か信じられない気持ちで一杯です
そして最後にとても素敵な人に出会いました
私の大好きな人です
その人の名前は、イ・ル・カ!
~「なごり雪」のイントロスタート~
「海岸通」曲前
いかがでしたか?
えー、私はさっきも言ったようにイルカさんがとっても大好きです
表現の仕方、もう何とも言えないんです
そして一番好きなのは心、ハートです
あのー、さっきも本番前に落ち着かなくて、どうしようどうしようなんて言う時に、一枚の手紙が届きました
イルカさんです!花束と一緒に…
とっても素敵なイルカさん
今度はクーミンからイルカさんに心を込めて歌のプレゼントをしたいと思います
海岸通…
「キラキラ星あげる」曲前
このステージ、私、クーミンにとって、歌手、最後のステージです
今まで色んなことがありました
初めに歌ったデビュー曲「あこがれ」
初めてのレコーディングの日に、風邪ひいちゃって、声が出なくなって、泣いちゃった私
「追いかけないで」「大人になれば」
これは浜口庫之助先生と出会いました
そして「エトセトラ」
エトセトラ..エトエト…ってほらっ!口が回んないでしょ!?
もうね、歌ってる最中、言えるかなーっていう感じで、いつも不安になってしまいます
そして最近では、クミちゃんの他に、街を歩いてて、もう一つの名前が付きました
コメットさ~ん
小さい頃から大人の人までコメットさん
わたしの想い出の作品でもあります
今日は「キラキラ星あげる」歌いたいと思います
皆さんもご一緒に…
Disc2 B面「スプリング・サンバ」曲前
皆さ~ん、ノッてますかー?
ヘーイ、ヘーイ、ヘイ、ヘイ…..(ファンとの掛け合い)
スプリーング・サンバー
(クーミンのサンバホイッスルが鳴り響く)
「さよなら ありがとう」曲前
※ヒット曲メドレーから続いた感じで、「さよなら ありがとう」のピアノ演奏が静かに始まり、そのままMCが始まります。
今日は嵐の中、こんなに沢山の人、どうもありがとう
このステージで歌とお別れです
でも、きっと忘れないと思います
あのー、2年間、とっても早かったけれど、色んな事がありました
何か口では言い表せないような色んな事が…
今言えることは、私はとっても幸せな女の子だった
明日からは女優という世界にお嫁に行きます
これからも、温かい心で、見守って欲しいと思います
2年間、本当にありがとうございました…
(泣きながら「さよなら ありがとう」を歌い始める)
※長めのアウトロの中、クーミンは「どうもありがとー」を連呼し、フェードアウトで終了
まとめ
こんな感じで、このライブアルバムは、途切れのない修正なしの臨場感をたっぷり味わえる作りになっています。
コンサートで高揚しているせいか、このライブアルバムでは、クーミンのかわいい部分がより色濃く出ています。
残念ながら、このアルバムはCD化されておらず、レコードで聴くしかありません。
クーミンの事が気になっていて、まだこのライブアルバムを聴いたことのない方は、是非中古レコードを入手して聴いてみてください。