昭和の歌謡界において歌唱力の高い歌手はたくさんいましたが、その中でも私が度肝を抜かれたのは八神純子さん。
艶やかで力強く美しい歌声、音域の広さ、なめらかに伸びていく高音
「みずいろの雨」を歌う八神純子さんをテレビで見て、もし自分が女性だったら八神純子さんのような声になりたいと思ったものでした。
「みずいろの雨」の曲中で吹くサンバホイッスルもカッコよく、家にもおもちゃのサンバホイッスルで、よく八神純子さんのマネをしていました。
当時、自分の聴いたことのない曲はTBSの歌番組「ザ・ベストテン」で知ることが多く、彗星のごとく名曲を引っさげて登場する歌手がたくさんいました。
八神純子さん同様、ヤマハのポプコン(ポピュラーソングコンテスト)出身の方もたくさんいて、多くはいわゆる一発屋で終わる傾向にありましたが、八神純子さんはコンスタントにヒット曲をリリースしていたので、ベストテン世代の方には忘れられない存在だと思います。
ただ、この頃は個性的なアーティストが次から次へと出てきて、YMOのテクノブーム、80年代アイドルブームなど音楽界は大きな変革期に入っていき、その中で八神純子さんはAOR等の洋楽志向のサウンドになっていきました。
そういうこともあり、八神純子さんの曲で覚えているのは、「Mr.ブルー~私の地球~」ぐらいまでという方も多いのではないでしょうか?
今回は、八神純子さんのいわゆるヒットソングとしてよく知られているもの以外でおすすめの曲を曲調別にピックアップしてみました。
気になる曲があったら是非聴いてみてください。
癒しのアコースティックサウンド
ここでは、ゆったりと八神純子さんの美声に浸れる曲を紹介します。
雨の日のひとりごと(1974年)
八神純子さんのデビュー曲で、ヤマハのポプコンというコンテストで自ら作詞作曲をしたこの曲を歌い、優秀曲賞を獲得しました。
3歳からピアノを習っていて、歌同様にピアノの演奏もとても上手です。この時、八神純子さんは16歳でした。
ファーストアルバム「思い出は美しすぎて」の1曲目にも収録されていますが、シングルとアレンジが違い、歌も取り直ししています。
シングルバージョンは、ガットギターとシェイカーのゆったりとしたボサノバのリズム。
八神純子さんは全力で歌っていて、ビブラートが強くかかっています。
サビでは八神純子さんの高音が鼓膜を震わせます。
アルバムバージョンは、悲し気なピアノのメロディーで始まり、途中からゆったりとしたボサノバのリズムにのせた明るく優しい雰囲気になっていきます。
リラックスした歌い方であまり強くビブラートをかけず、曲がさらりと流れていく感じです。
この曲の八神純子さんの声は、16歳ということもあって、少し線が細めでかわいらしい声です。
どちらのバージョンも素敵ですが、刺激的な歌声のシングルバージョンがおすすめです。
さよならの言葉(1978年)
4枚目のシングルですが、この曲は八神純子さんの作詞作曲ではなく、第13回のポプコンで優勝した小野香代子さんの作品です。いわゆるカバーソングですね。
アコースティックギターによるゆったりとしたテンポの優しいメロディーが印象的な曲です。
「雨の日のひとりごと」と「さよならの言葉」の辺りの八神純子さんの高音は、非常にキラキラしていて、朝倉理恵さんの美声に通じるものがあります。
目覚めた時に(1978年)
5枚目のシングル「みずいろの雨」のB面の曲です。
サックスから始まるおしゃれで心休まるメロディーを持った曲で、ため息交じりに出す声など大人のアーティストになっていく八神純子さんを感じ取ることが出来る1曲です。
Mellow Cafe(1992年)
15枚目のアルバム「Mellow Cafe」の2曲目に収録されているタイトル曲です。
リズムマシーンのゆったりとしたリズムにピアノの伴奏を主体とした安らぎソングで、曲の後半からはKenny Gを思わせるようなエレガントなサックスが入ってきます。
サラッと流れていきそうな曲調ですが、サビでは八神純子さんならではの抑揚のある美しいメロディーを聴くことが出来ます。
カッコいいAORサウンド
艶っぽいバラードと共にノリの良いAORサウンドは八神純子さんの真骨頂。
ここでは河合奈保子さんと所縁のある2曲を紹介します。
夏の日の恋(1980年)
「Mr.ブルー 〜私の地球〜」のB面の曲です。
この曲の聴きどころはリズミカルなベースライン。
他にも「思い出のスクリーン」など、八神純子さんの曲にはベースラインのカッコいい曲が結構あります。
サンバ調のリズムと明るい雰囲気で曲が始まり、サビではちょっぴりダークな雰囲気、最後は天突き抜けるハイトーンで終わるといった面白い曲調です。
「夏の日の恋」は、1984年に発売された河合奈保子さんの8thアルバム「サマー・デリカシー」にも収録されています。
少し脱線しますが、この「サマー・デリカシー」というアルバムは、河合奈保子さんのデビュー5周年を記念してリリースされた第1弾アルバムで、A面は全曲八神純子さんの作曲、B面は来生たかおさんの作曲の非常にクオリティの高いアーティスティックな作品となっています。
八神純子さんが担当したA面の曲は、「夏の日の恋」以外はこのアルバムのために八神純子さんが書き下ろした曲で、河合奈保子さんはサラッと歌っていますが、八神純子さんが作曲しただけあって音の高低差や譜割り等、歌いこなすのが難儀な曲が並んでいます。
こういった曲を八神純子さんが提供したのも、河合奈保子さんの音域・声量・ピッチといった高い歌唱力に信頼感があったからでしょう。
Deja Vu(1980年)
3rdアルバム「Mr.メトロポリス」に収録されている曲で、ハイテンポなラテン系のリズムにマイナー調(悲し気な)のメロディーを載せた曲です。
このリズムのまま曲は完結するのかなと思いきや、サビでゆったりとしたリズムになり、八神純子さんが朗々と歌い上げます。
河合奈保子さんは、1982年の新春ライブでこの曲を歌いました。「NAOKO IN CONCERT」というライブアルバムで、その歌唱を聴くことが出来ます。
艶めかしいスローバラード
八神純子さんの滑らかで艶のある声で歌われるバラードは、心に染み渡ります。
ENDLESS SUMMER(1978年) / ラブ・シュープリーム(1983年)
曲調が似ているので2曲まとめて紹介しますが、どちらの曲もゆったりとした優しい感じの曲です。
「ENDLESS SUMMER」は3rdシングル「思い出は美しすぎて」のB面の曲で、まだ声にかわいらしさが残っています。
「ラブ・シュープリーム」は「宇宙戦艦ヤマト 完結編」の挿入歌で、古代とユキが新しい未来を創るといった映画の最後の方のシーンで使用された曲で、この映画を見た人は八神純子さんの曲が異様にマッチしていて、強く印象に残っている方も多いのではないでしょうか?
漂流(1980年)
9thシングル「パープルタウン」のB面の曲です。
ちょっと怖さを感じるぐらい重々しい雰囲気の曲調で、なめらかに伸び上がっていく八神純子さんの高音部はインパクト大。
個人的には、ヒットシングルと並ぶほど好きな曲です。
甘い生活(1980年)
8thシングル曲で、「ポーラースター」と「パープルタウン」の間に発売されたました。
「みずいろの雨」から勢いに乗っていた八神純子さんでしたが、この曲はザ・ベストテンにランクインしなかったため、記憶にない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ザ・ベストテンにランクインした「みずいろの雨」から「Mr.ブルー 〜私の地球〜」までの曲の中では一番テンポが遅く、先程の「漂流」同様重々しさのある曲です。
激愛をテーマにしたような仰々しいイントロから、ガクンとトーンを落とした非常に美しいAメロ、そしてサビに向かって徐々に盛り上がって行くという構成が秀逸です。
かわいらしい曲
恋人同士(1978年)
4thシングル「さよならの言葉」のB面の曲です。
ミドルテンポの軽快な曲調で、この頃の八神純子さんの声はかわいらしさが残っているので、アイドルソングのようにも聴こえます。
どことなく中川翔子さんもカバーした原日出子さんの「約束」に似ている気もします。
まとめ
八神純子さんは現在でもその歌声を維持し、2016年にはアルバム「There you are」をリリースしています。
ライブ活動も継続しており、時折大手ショッピングモールの広場でその歌声を披露してくれることもあるので、チェックしてみてください。
八神純子さんの曲には、まだまだいろんなタイプの曲がありますが、もしアルバムを聴かれるのなら、バラエティに富んだ初期のアルバムがおすすめです。
ファーストアルバム「思い出は美しすぎて」等の初期のアルバムは、2016年7月20日にBlu-spec CD2化され、1500円程度の価格で再発されているので、未聴の方は是非聴いてみてください。
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