癒し、リラックス、郷愁…そんな言葉がピッタリくるのが、来生たかおさん&えつこさん姉弟の作り出す音楽。
来生たかおさんは、1976年に「浅い夢」でデビューして以来、たくさんのアルバムをリリースしていますが、今回は5枚目のアルバム「AT RANDOM(アト ランダム)」のアルバムのイメージなどについて書いてみたいと思います。
このアルバムには、80年代アイドルの河合奈保子さんのアルバムに収録されていた「車窓」という曲の原曲が収録されています。
【来生たかお】5thアルバム「AT RANDOM」レビュー
来生たかおさんの作り出す音楽は普遍的で、その根底にあるのはノスタルジー。
ノスタルジーとはフランス語で、遠い過去を懐かしむことを言いますが、来生たかおさんの場合のノスタルジーは、決して現状を嘆いて過去に帰りたいというものではなく、都会の喧騒に疲れて、ふとセピア色の思い出を思い出し、明日の糧にするといった前向きなもののように思えます。
アルバム仕様について
「AT RANDOM」はCDでもリリースされていますが、ここではLPレコードの仕様について書いておきます。
ジャケットの中には1枚の歌詞カードのみ入っていて、歌詞カードの裏面は頬杖をつく来生たかおさんが映っています。
ジャケットに付いている黄色い帯には色々な説明が書いてあります。
「アレンジャー来生初登場~」なんてことも書いてありますが、このアルバムで来生たかおさんがアレンジを担当した曲は1曲のみ。
帯の下の方にアルバム収録曲が記載されていますが、B面3曲目として記載されている「幸せですか」は誤植で、正しい曲名は「ちょっと、ドギマギ」です。
詳細は分かりませんが、もしかすると「幸せですか」という曲を収録する予定だったのかもしれません。
レコード盤の中央には仰け反った黒猫さんがいます。
「AT RANDOM」の作風について
全曲の作詞は来生えつこさん、作曲は来生たかおさんで、収録曲は以下の通りです。
(A面)
- いつか、むかし(編曲)若草恵
- もうすぐ、たそがれ(編曲)松井忠重
- らぶ・れたあ(編曲)椎名和夫
- 夜の底へ(編曲)矢倉銀
- つまり、愛してる(編曲)松井忠重
(B面)
- 車窓(編曲)星勝
- 真昼のくらやみ(編曲)星勝
- ちょっと、ドギマギ(編曲)椎名和夫
- 遅い夏(編曲)若草恵
- ほんの、ノスタルジー(編曲)星勝
来生たかおさんの作り出す音楽は、大まかに分けると先程お話ししたノスタルジックなものと都会の人間模様を描いたものがあり、曲調で言うと、子守歌的なものとおしゃれなシティポップといった雰囲気です。
基本的にどのアルバムにもこういったバランスで曲が収められていて、この「AT RANDOM」もそういった傾向のアルバムです。
タイトルに「いつか、もうすぐ、ちょっと、」など、ひらがなの修飾語や濁点を多用していて、何かのキャッチコピーのようなおしゃれさと、ひらがな表記による柔らかな印象を受けます。
A面は軽快なロックンロール調のシティポップで始まり、その後は優しく柔らかい曲が続いていきます。
4曲目の「夜の底へ」の編曲者は矢倉銀となっていますが、これは来生たかおさんのペンメームで、このアルバム唯一のセルフアレンジ曲です。
メロディーが映えるとてもシンプルなアレンジで、アンニュイな雰囲気と突き上げるようなマイナー調(悲し気な雰囲気)のメロディーが混ざったA面のキラーソング的な役割を果たしています。
B面は、ゆったりとした曲調の「車窓」という曲から始まります。
何かの夢のために細やかな幸せに包まれた田舎での生活を捨て、都会へ向かう列車に乗っているというような情景が描かれている曲。
この記事の始めの方で河合奈保子さんがカバーしていると書きましたが、この曲は当時カセットのみでリリースされた「愛・奈保子の若草色の旅」という来生えつこさんが企画・構成を担当したアルバムに収録されています。
来生たかおさんのバージョンは、甘いトーンでつぶやくような歌い方からサビに向かって声を張り上げる感じとシンプルなアレンジから、70~80年代当時の故郷を捨てて都会へ出ていく男の決意・期待・不安のような心情を聴いて取れます。
河合奈保子さんのバージョン(編曲:若草恵)は、エレガントな歌い方とサビに向かってダイナミックになって行くアレンジから、泥臭い雰囲気は感じられず、新しく明るい未来へ向かって旅立つ人間像のようなものが思い浮かんできます。
アルバム「AT RANDOM」は、題名の通り、特にコンセプトはないのかもしれませんが、「車窓」以後の曲が都会の人間模様を描いた作風が多いことから、「車窓」で都会に出てきた青年が遭遇した都会の風景を描いているようなストーリー性を感じます。
最後の「ほんの、ノスタルジー」は、8thシングルとしてリリースされた曲で、アルバムを通して聴いていると、パッと煌めくような雰囲気があり、他の曲と少し違う雰囲気があります。
シングルとしてアルバムに先行してリリースされただけあって、おしゃれでキレ、ノリ、キャッチーなフレーズ満載のインパクトのあるマイナー調の曲です。
大ヒットした「夢の途中」の次にリリースされた「気分は逆光線」のような雰囲気があります。
まとめ
来生たかおさんの楽曲をマンネリと評する方もいると思いますが、各アルバムを聴き込むと、楽曲それぞれに印象的なフレーズがあり、たくさんのパターンのセピア色の風景、四季折々を楽しみ、又は憂う恋人の情景や人間模様が描かれており、必ずと言っていい程、リスナー一人一人にマッチする楽曲があると思います。
そういった楽曲に出会った時、キュッと胸を締め付けられ、感慨深くその時の情景を思い出すことでしょう。
何もすることのない休日に紅茶でも飲みながら雑誌等を読むひとときに、来生たかおさんの曲を流せば、貴重な休日に華を添えてくれると思います。
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